VECTOR BRANDのミッドレングスにおいて絶大な人気を誇るモデル「Phish」
最大の特徴は、フィッシュテールでありながら「シングルフィン」であるという、一見すると珍しいセットアップです。
広いテール幅は、パッと見では少し動きが重そうな印象を与えるかもしれません。しかし、ひとたび波を捕まえれば、その予想は心地よく裏切られ、爆速のテイクオフから、スムーズに、そして力強く板が走り出します。
ターンの瞬間、フィッシュテールの先端がピボット(軸)となり、シングルフィン特有の滑らかさと相まって、驚くほど鋭く「キレ」のある動きを見せてくれます。
スピードに乗った後のスラッシュ気味のカットバックは格別です。狙ったラインをなぞる時の爽快感は個人的にも、一番のお気に入りで、何度味わっても飽きることがありません。
「一度乗るとみんなハマってしまう」
もう何本作っただろうか。
実はこのモデル、狙って作ったというよりは、さまざまな要因が重なり合って「偶然」出来上がった傑作なんです。



Instagramを見返してみると、2020年のこと。もう6年も前の話になります。
当時、8ftのブランクスから7’6”くらいのボードを削り出そうとしていたのですが、誤って数インチ短くカットしてしまったんです。
お客様からのオーダー分だったので当然ブランクスは再発注することに。自分のうかつさに腹立たしさもありましたが、「さて、この残されたブランクスをどうしようか」と考えていたときに、あるイメージが頭をよぎりました。
それは、以前どこかで見かけたアメリカの老舗ブランド 「Gordon & Smith(コードン・アンド・スミス)」の古い写真。だったと思う。
スワローテールよりフィッシュに近いテール幅のシングルフィンです。「いつか試してみたい」と頭の片隅にあったその記憶がこの失敗をきっかけに蘇ってきました。

手持ちのテンプレートを組み合わせてアウトラインを再構築、7’0”へとストレッチさせ。ロッカーを調整しながら一気にシェイプしました。
ただ、いざ完成してみると、不思議とすぐには乗る気分にはなれず、そのまま1年以上、ショールームに飾ったままの月日が流れました。

転機が訪れたのは、ホームで胸〜肩くらいの良い波が上がった日。あいにく手元にちょうどいいボードがありませんでした。というのも、調子のいいボードができたと思って乗っていると、「皆に、ちょっと貸して」と持っていかれてしまうから(笑
『シェーパー、自分のボード持ってない説』
師匠とそんな話をしながら「お前もそーなのか」と笑い合ったのを覚えています。
そこで仕方なく、ずっと飾ってた7’0”のフィッシュのシングルフィンを降ろすことにしました。

結果は…..。
「めちゃくちゃ、良かった」
言葉にするとシンプルですが、本当にそういうこと。
普段なら、どんなに調子のいいボードでも、頼まれると「楽しんでもらえるなら」と泣く泣く手放してしまいます。でもなぜかこの「マスターボード」だけは別。これからも手放すことはないと思う。
そして、この独特なアブストラクト(樹脂デザイン)も、その当時の「半分ヤケクソ」な勢いがあったからこそ思いっきり試せた手法。
そういえば、昔よくウチに遊びにきていたやつで、今はニュージーランドで立派にグラッサーとして活躍している男がいるのですが、彼からも当時しつこく連絡が来ていました。
「どーやってその柄出しているのか教えろ!」って(笑
この写真がその時のだけど、「あの一瞬の衝動」がカタチになったこのデザインは、自分でも興奮したのを今でも覚えています。

今回のオーダーも、使うカラーこそ違えど、あの時と同じ手法でラミネートを施しました。
樹脂と樹脂が混ざり合い、色が複雑に絡み合っていく。それは計算だけで制御できるものではなく、樹脂の粘りや重みが道具を通して伝わる自分自身の「感覚」で決まります。
色の落とし方、混ぜ具合、スクイージーを走らせるスピード。その一瞬一瞬の判断の積み重ねが、写真のような唯一無二の表情を見せてくれます。
アブストラクト(抽象的なデザイン)だからこそ、そこにはその時にしか生まれない「ライブ感」が宿る。今回も納得のいく「一点物」としての躍動感を閉じ込めることができました。



オーダーいただいたオーナー様は、ショートレングスから始まり、ロングボード、そして今回ミッドレングスとこれで3本目のオーダーとなります。
僕のところにお越しいただく前から、あらゆる長さのボードを乗りこなしてきた方ですが、先日、初おろしされたとのことで、さっそく嬉しいご連絡を頂きました。
「このボード!めっちゃ楽しい!!」
そのシンプルで力強い言葉から、このミッドレングスが見せる「新しい世界」を存分に味わっていただけたようで、僕も安心しました。
作り手として、こうして1本、また1本と、その方の波乗りやライフスタイルに寄り添いながら、ボードを削り続けられることは、本当に幸せなことだと改めて実感しました。




アブストラクトの躍動感がありながら、どこかシックで「派手さの中に落ち着きのある仕上がり」になっています。
デッキ面は飽きのこないクリーンな表情に仕上げ、ボトム面には例のアブストラクトを。
光の当たり方で表情を変えるこのデザインは、やはりあの時の高揚感を思い出させてくれます。





ボードのポテンシャルを最大限に引き出すためのフィン。
オリジナルブランド「Synchro custom fin(シンクロ)」のモデル Nancy 9.125″ flex.
ミッドレングスに最高にマッチするこのモデル。テールの幅に合わせてフィンに高さを持たせる事で、安定感と回転性のベストなバランスを追求しています。
こうした細かな調整を臨機応変にできるのも、カスタムフィンならではの強みです。
ましてや、このボードの絶妙なブラウンに溶け込むようなカラーは、市販にはなかなかありませんよね。

今回のボードは、全体的にブラウン系で統一しました。
道具としてはもちろんですが、持っているだけで、あるいは眺めているだけで「次の波が楽しみになる」。
そんな一本になってくれたら嬉しいです。
オーダーありがとうございました。


Model:Phish
7’0″ x 22″ x 3″
Shaped and Glassed by Yoshito Shirouzu.
Finished and Fin crafted by Yuya Suzuki.





