静かな旋律と、ハイドロチャンネルの轟音。

この日は一日中雨の予報で、個人的に雨の日のシェイプはなんだか集中できるので好きです。

Spotifyで適当に探したJazzでも流してスタート。

と、いうのも、ちょうどこのボードをシェイプする少し前に、サブスクで目についた「セッション(Whiplash)」という映画を観ていました。Jazzドラマーを志す若者と狂気じみた教師が火花を散らすサスペンス・スリラー。サントラも良くヘッドホン爆音で。面白い映画だったので、ちょっとJazzを掘ってみたいなという気分でもありました。

さてさて、ボードについて。今回のオーダーは既存モデルではなく、完全なカスタムオーダー。

今ままでのアウトラインやデータを元に一から作り上げていきます。

リクエストは「忙しく動かさない」「ゆったりと腰サイズから頭くらいまで乗れるツインフィッシュ」とのこと。

そう。この日はとても驚いたことがあって。

僕はボードをシェイプすることはオーナー様に伝えていなかったのですが、注文していたグローブを引き取りに、偶然ご来店。

「ちょうど今、〇〇さんのボードのシェイプが終わったところですよ」

見ていきませんか?とシェイプルームに案内した先に、これまた、偶然流れてきたマル・ウォルドロンの「Left Alone」。

「うわ、これ僕の大好きな曲です。大学生の頃、死ぬほど聴いてました」とのことで、僕がボードの説明するより、音楽の話に聞き入ってしまいました(笑

僕はオーダーの打ち合わせの際、サーフィン以外の好きなこと、モノ、音楽など、その人のイメージを沸かせるために聞くことがあります。

今回のオーナー様はJazz、ボサノヴァが好きだということで、小学生の頃から家を出る前にレコードに針を落として、一曲聴いてから登校していたそう。

「いやいや、どんな小学生なんですか笑、絶対すでに髭生えてましたよね」なんてバカな会話を交わしていました。

そんなこともありRock好きな僕は、最近Jazz聴いてます(笑

Jazz、ボサノヴァが好きだということでしたが、その根っこには「ハードロック」があり、フライングVを操るマイケル・シェンカーに傾倒していた時期もあったそうです。

そんな要素もデザインに落とし込み、ボトムには「ハイドロチャンネル(流体回路)」を組み込みました。

今回のボトムは、単なる深いコンケーヴではありません。ストリンガーラインを頂点に、左右が独立して深く掘り込まれた「ボンザーコンケーヴ」を現代的に解釈したダブルコンケーヴ構造になっています。

イメージは水を管理するための「回路」。

世界的なシェーパーであるライアン・ラブラースが説くように、これは水を溜めるためではなく、テールエンドへ向かって高速で「デリバリー(供給)」し、一気に「リリース(解放)」するための噴射口。そんな機能を持たせています。

この見た目と中身のギャップを、デザインとしても視覚化するために、今回は非常に手間のかかるラミネート手法を選択しました。

まずボトムにフリーハンドでしか施せないテーピング。

そこにリバース・ラップ(通常ボトム側から先にラミネートしますが、デザインによってデッキ側からラミネートする事)でディープパープルのティント樹脂をドロップ。

マスキングを剥がすと、「水流の出口」となるセクションだけが白くクリアに浮かび上がりました。

紫の樹脂が描く曲線と、クリアに残されたコンケーヴのライン。このコントラストが複雑なハイドロダイナミクス(流体力学)を視覚化した、このボードの「神経系」。

この衝動を最終的にコントロールし、波のパワーを変換するのが、テールに備わるウッドキールフィン。合間に、このボードに合わせてベースを広く設計したフィンもフォイル(削り出し)しました。

実はこれ、以前トーマス・ベクソンが、師匠『拓哉”Tappy”吉川』氏のところで来日シェイプした際に、僕がフィン制作を依頼された事があり、その時のデータを元に自分なりに今回のミッドフィッシュに合わせて改良して制作しました。

もちろんグラスオン。フィンの根元に「グラスロービング(繊維の束)」を仕込み、樹脂によってボード本体と完全に一体化させていきます。

リーシュロービングもラミネートの一部で、この造形が野暮ったくならないよう、削り出しの美しさにもこだわっています。

なるべくフラットに、そのボードに馴染むように。

サンディングしていくと、あの「ハイドロチャンネル」と一体化したフィンのエッジが次第にその姿を現してきます。

二面性を持つこのボード。

スモールコンディションでは、深い溝に空気が混ざり合うことで生まれる軽やかな「リフト(浮揚感)」を。

一転して、マイケル・シェンカーのフライングVを彷彿とさせる鋭いドライヴが求められる「頭サイズのパワーのある波」では、グラスオンされたウッドキールと連動した深いエッジが水を逃さず捉え、爆発的な推進力を生む。

水に張り付くような重さを排除した鮮やかな「リリース(解放)」の感覚。

クリーンなアウトラインという「端正な旋律」の中に、激しい水流の「衝動(ドライヴ)」を隠し持った、このオーナー様のための特別な一台がこちら。

鏡のように周囲を映し出す、グロスフィニッシュ。

ラミネート時にドロップしたディープパープルのティント樹脂は、磨き上げることで生まれる静かな奥深さと、妖艶な光沢。

クリアに残されたダブルコンケーヴとのコントラストが、狙い通り、複雑なハイドロダイナミクスを視覚的に強調してくれました。

ディテールにもう一つ隠し味を。

クリアセクションとパープルの境界には「電子回路のようなダブルピンライン」を施しました。

ボトムに施した流体回路と呼応するデザインです。クリーンで端正な旋律の中に、「現代的なテクノロジー」と「熱い衝動」が組み込まれていることを、静かに主張しています。

このボードは一見すると端正で静かな「JAZZ」。

しかし、その心臓部には「HARD ROCK」のような激しく鋭い衝動(ドライヴ)を秘めています。

海の上でどんな音を奏でるのか、今から楽しみです。

楽しいオーダーをありがとうございました。

7’11” x 22 1/4″ x 3 1/16″

Shaped and Glassed , Fin crafted by Yoshito Shirouzu.

Finished by Yuya Suzuki.

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