ご無沙汰しております。
このところありがたいことに忙しくさせていただいており、Blogの更新がすっかり後回しになっておりました。
「一つの読み物として楽しみに待っています」と、海でお会いする方や、コメントで声をかけていただくことも多く、嬉しいかぎりです。いつもありがとうございます。
作業の合間、例えばラミネートの硬化を待つ時間や、ふとした作業の切れ目を使って少しづつ言葉を選びながら書いているため、なかなか亀の歩みではありますが、お付き合いいただけますと幸いです。
さて、今回ご紹介するボードのオーナー様との出会いは、まだ僕がビーチフロントにショールームを構えていた頃に遡ります。
確か5〜6年前だったでしょうか。もしかするともっと前かも。一度足を運んでくださった際、その方は「まだロングボードを始めたばかりで」とお話しされていました。
「もう少し乗れるようになったらオーダーしたいです」
ご年配でありながら、どこか醸し出す雰囲気が独特で、記憶にずっと残っていました。
先日、電話で「ボードのリペアと、新しいオーダーを考えています」とお問い合わせをいただきました。そして実際に工場へご来店いただき、お顔を拝見した瞬間、一気に記憶が繋がりました。
練習を重ね、年月を経て本当にオーダーしにきてくださったこと。作り手として嬉しい瞬間でした。
さっそく色々と話を伺うと、
「歳も歳なのでゆったりとリラックスして長く波に乗りたいんです。おすすめはありますか?」とのこと。
最初はすぐにGlider(グライダー)のシルエットが頭に浮かびました。
ですが、会話を重ね、その方の佇まいや醸し出す雰囲気に触れているうちに、僕の中で別のイメージが膨らんできました。
この方の持つ独特の雰囲気には、ただ素直なボードよりも、もう少しクセのあるクラシックなモデルの方が絶対に似合うじゃないか、と。
そこでショールームにあるLeroy Gasnnis(リロイ・グラニス)やRon Stoner(ロン・ストーナー)の写真集を一緒にパラパラとめくりながら、僕から提案させていただきました。
「DフィンのグラスオンでこんなPIGにしましょう!絶対似合うと思います。」
ページに映る当時の雰囲気に、「いいですね〜」
笑顔で一言「お任せします」
職人として、これ以上ない最高の一言をいただきました。
『60’s style PIG』と題して製作を進めているこのボードですが、ちょっとマニアックな歴史の話をすると、そのルーツ1950年代後半にまで遡ります。
PIGという「ワイドポイントをセンターよりテール寄りに置く」革新的なアウトラインを生み出したのは、レジェンドであるDale Velzy(デイル・ベルジー)氏。
1950年代半ばに彼が考案したこのデザインは、それまでの重厚なログに驚くほどの操作性をもたらし、サーフボードの歴史をガラリと変えました。
一般的には60年代前半のムービーや写真の印象から「60’sスタイル」と括られがちですが、PIGのアウトラインも、どっしりしたDfin、重厚な10オンスや8オンスのボランクロスも、全ては50年代後半に花開いたクラシックサーフィンの原点そのものです。
今回のオーダーは、そんなサーフィン黄金期の濃密なDNAを現代に甦らせる作業でもありました。

今回使用するブランクスは、最初はやはりトリプルストリンガーが良いかなと考えました。しかし、60歳を過ぎたとは思えないオーナー様のスラっとした体型と雰囲気に合わせるには、なんだか無骨すぎるように感じて。
少し太めの1/2インチのレッドウッドに1/8インチのバスウッドで挟み込んだ「T-BAND」を別注させていただきました。


シェイプしたものがこちら。
シンプルでありながら、芯の通った存在感があります。

もちろんノーコンケーヴのラウンドボトムです。
無駄な抵抗のない、この流れるようなボトムがGlider(グライダー)とはまた一味違ったグライドを感じさせてくれます。

今回グラスオンするウッドのDフィンは先ほど話に出たDale Velzy氏のテンプレートを採用。
全体のラミネートはクリアー、8オンス・ボランクロスで。

ティップが少しテールからオーバーする絶妙な位置にセットしています。


グラスオンのサンディングでは、フィンの付け根の部分のカーブや、ロービングの残し方に強いこだわりをもって作業しています。この部分の処理の仕方ひとつで、ボード全体の引き締り方というか、醸し出す「色気」が全く変わってしまうと、僕は思っています。

サンディングを終えた次の日の朝。
工場に出社した時に撮影した一枚です。
まだ電気をつける前、朝日に照らされたこのボードの輪郭があまりにもにかっこよくて、思わず写真を撮りました。
そこから複数の工程を経て完成したボードがこちら

グロスポリッシュでレッドウッドストリンガーの高級感が際立っています。







車からこんなフィンのついたボードが出てきたら、つい目を奪われます。

少し独特な、引き込まれるような感性を持った方だなーー。
そう感じていた僕はボードを作り始める前にゆっくりとお話しを聞かせていただきました。
音楽好きそうな雰囲気を漂わせていらっしゃったので、僕がよくする、「どんな音楽を聴かれるんですか?」という質問を投げてみました。
「昔から色々聴きましたね。David Bowieとかも好きでしたよ。あ、最近はインドミュージックなんかも聴いてます(笑) 考えさせられることがあってインドに行ってガンジス川に頭まで浸かって来たりしましてね。」
独特なエピソードに思わず笑ってしまいましたが、お話を聞くうちに昔の記憶が蘇ってきました。
実は以前「ガバガバヘイ」という美容室を経営されていたとのこと。
僕が10代の頃、まだ福岡の大名や今泉エリアには、ほんとうに個性的で刺激的なお店が立ち並んでいて、用もなく街を歩いては強い影響を受けていました。
その一角にあった、鉄板をくり抜いた「ガバガバヘイ」というカタカナのショップサイン。
強烈なインパクトとともに、僕の記憶にずっと残っていたのです。
「あの看板!ありましたね!!僕すごくよく覚えています!」
「今考えると若気の至りで恥ずかしいですよ。とくに領収書いただくとき『宛名はガバガバヘイで』って伝えるのが恥ずかしくてね(笑)」
と懐かしそうに笑っていらっしゃいました。
現在はそちらのお店を譲られ、別の場所で『Gram』という名前で美容室を営まれているそう。Instagramを拝見すると、古い木造倉庫をリノベーションした、これまたセンスの塊のような素晴らしい空間でした。
ピンとくる方も多いと思いますが、ガバガバヘイはパンクバンド・ラモーンズの曲の名フレーズ(Gabba Gabba Hey)。そして最初に出てきたデビッド・ボウイのお話。
「もしかして今の『Gram』という店名もグラムロックからですか?」と尋ねると
「そうです(笑) 少しスペルは変えてますけどね!」とのお返事。
最初に感じたあの独特な空気感の正体と、カルチャーへの深い愛。
点と点が一気に繋がり、ふに落ちた瞬間でした。


PIG:9’6″ x 22 1/2″ x 3″
Shaped and Glassed by Yoshito Shirouzu
Factory : STANDARD
後日メッセージが届き
「ボードすごく楽しいです。周りの方にも、すごく褒めてもらってます。」との事
とても嬉しいです。オーダーありがとうございました。





