ボードのオーダーをいただいた際、考えることのひとつに、そのボードが海の中でどのような「佇まい」を見せるかということ。
今回ご紹介するのは、人気のミッドレングスモデル『Avoid』。アウトラインの美しさはもちろんのこと、オーナー様のこだわりを凝縮した一本の作品ができるまでを振り返ります。

まず目に飛び込んでくるのは、トリプルストリンガー。通常、サーフボードの芯材(ストリンガー)には白っぽいバスウッドが使われることが多いのですが、今回は「ダークウッド」を選択されました。ダークウッドは染色によるカラーで深く落ち着いたブラウンに仕上げられています。
ノーマルのバスウッドが軽快な印象を与えるのに対し、このダークウッドはボード全体をグッと引き締め、力強い存在感を放ちます。個人的には落ち着いたスタイルを好む大人の男性に選んでいただきたいカスタムです。
さらに1本が3本に変わるだけで、ボードには工芸品のような気品が宿ります。


ミッドレングスのシングルフィンといえば、70年代に見られるようなフラットデッキを想像される方も多いかもしれませんが、この『Avoid』ではセンターからレールにかけて滑らかにラウンドさせています。
贅肉を削ぎ落とし、テールエンドまで流れるようなライン。この曲線が水流をスムーズに逃がし、ミッドレングスでありながら「重さ」を感じさせない軽快なターンを可能にします。
センターを走る重厚なダークウッドのトリプルストリンガーが、この柔らかな曲線の中に組み合わさることでクラシカルな品格を保ちつつも、全体をピリッと引き締めています。

サーフボードの性能を左右する最も重要なセクション、それが「ボトム」です。
ボトムの形状は様々でノーズからテールまで一定ではありません。このモデルはシングルコンケーヴ〜ダブル〜スパイラルVEEへと変化していきます。
まずは前方で水を引き込み、一気に加速を生み出します。センターを過ぎたあたりから水流を二分し、ボードに「軽さ」と「反応の良さ」を与えます。最終的にテールエンドへ向かって水を逃すことで、レールからレールへの切り返しをスムーズにします。
実は、この複雑なコンケーヴを削る際、難関となるのがトリプルストリンガー。通常のフォーム(ウレタン)に比べて木材は硬いため、コンケーヴの深い溝の中にストリンガーが入ってくるとカンナやスムージングの感触が変わります。
少しでも気を抜くとラインが歪んでしまうため、常に指先で「面」の微妙な変化を感じ取りながら、集中力を研ぎ澄ませて削り進める必要があります。
シェイピングの難易度は跳ね上がりますが、「完璧な水流」と「見た目の気品」をイメージして削ることは僕にとっては楽しい時間です。


このミッドレングスのモデル『Avoid』の最大の特徴は、その懐の深さにあります。完成されたアウトラインはそのままに、乗り手の好みやホームポイントの波質に合わせて、フィンシステムを柔軟に作り変えることができる設計になっています。
・シングルフィン:ミッドレングスの醍醐味である、大きなラインを描くグライド感を。
・ツインフィン:ルースでスピード感のある、自由なマニューバーを。
・2+1(widow maker):シングルフィンの安定感に、サイドフィンのドライヴ感をプラスして。
選択肢が広いからこそ、オーナー様が何を求めるかが重要になります。今回いただいたオーダーは、迷うことなき王道のシングルフィン。
>>ミッドレングスのシングルフィンについて詳しくはこちらに記事を書いています。

ラミネートの工程の中で技術の差が顕著に出るパートに「ピンライン」があります。
現代のサーフボード製作ではアクリル塗料などを使ってエアーブラシを使いサラッと色を入れるやり方が主流ですが、僕は昔ながらの技法で樹脂に色を混ぜてラインを引く「レジンピンライン」にこだわり続けています。
レジンに顔料を混ぜてラインを引く作業は、実はデメリットだらけです。硬化するまでに時間がかかり、塗る量が多すぎれば垂れ、顔料が多すぎれば硬化不良や滲みを引き起こします。スプレーに比べれば、何倍もの手間と神経を使う作業です。
それでも僕がこの手法を使うのは、「深み」と「厚み」が全く違うからです。樹脂そのものに色が乗ることで生れる立体感は、簡易的な塗料には決して出せない、手に触れた時に感じる確かな質感をボードに与えてくれます。

今回のオーダーでは、2色のラインを重ねた「ダブルピンライン」を施しました。まずは1本目にホワイトを引き、1日置いて硬化したら2本目に繊細なシャンパンゴールドを。
マスキングはアタリ線無しで、すべてフリーハンド。樹脂と手仕事が相まって生れるわずかな揺らぎは、ハンドメイドならではの「アジ」であり量産品には真似できない大切なディティールです。
「世界で一番細く、美しくレジンピンラインを引ける職人になりたい」と真剣に追求してきました。最近は細かい作業が続いて目が少し霞むこともありますが(笑 仕上がった細いラインがボードの輪郭を際立たせる瞬間を見ると「やっぱりこれだな」と確信します。


ボトムのカラーは唯一無二の表情を描く、僕の真骨頂であるアブストラクト。ありがたいことに、このアブストラクトについては質問をいただくことが本当に多いので、また何かの時に詳しく書いてみようと思います。
ちなみ今回は深みのあるレッドの中にホワイトの細かい線が残るように樹脂が混ざり合う一瞬の動きを捉えて慎重に樹脂を流し込んでいます。

その後の全ての工程を終え、ようやく一本のサーフボードとして完成した姿がこちら。

デッキ面はクリアーのクリーンな質感にダークウッドのストリンガーが凛とした表情を与えています。サンディングとポリッシュを経て生まれた鏡のような光沢は、レジンピンラインの厚みをより際立たせ、工芸品のような気品を漂わせます。


レールをなぞった時に感じる、途切れることのない滑らかな質感。


そして、ボトムへと裏返した時に広がるのは、沸き立つようなボルドーのアブストラクト。デッキの「静」とボトムの「動」の対比はオーダーメイドでしか味わえない贅沢なコントラスト。





フィンはオリジナルブランドSYNCHRO (シンクロ)custom fins のModel:Nancy 9.0″ FLEX
6ozと8ozをブレンドして硬いだけでも、柔らかいだけでもない、程よい「しなり」。ミッドレングス特有の伸びやかなターンにおいて、粘りのあるレスポンスを追求。
ボルドーのボトムに純白のフィンがシンプルかつ力強くボードの輪郭をパキッと完成させてくれました。

『Avoid』という名前には、既存の枠に囚われないという意味を込めています。
単なる道具としてだけではなく、長い時間を共にできるパートナーになってくれたら嬉しいです。最高の波をスコアできる事を願っています。
さて、次のシェイプに取り掛かります。
素晴らしいオーダーをありがとうございました!!
Model:Avoid 7’11” x 21 1/4″ x 2 11/16″
Shaped and Glassed by Yoshito Shirouzu
Finished and Fin crafted by Yuya Suzuki
>>オーダーについてはコチラからお気軽にお問い合わせください。





