ツインフィッシュの歴史は、1960年代後半、スティーヴ・リズによって産声を上げました。それまでのシングルフィンとは一線を画す、圧倒的な加速力と、ルースな乗り味はサーフィン界に大きな革命をもたらしました。
VECTOR BRANDの『Pocket Fish』は、その時代のDNAを色濃く継承したトラディショナルなツインフィッシュです。単なるレトロの再現ではなく、波のポケットにピタリと吸い付くような一体感と、解き放たれた瞬間の爆発的な推進力、そして軽快なターン。そんな理屈抜きの楽しさが詰まった一本です。
サーフボード、そしてサーフィングという文化を語る上で、このスタイルは一度は乗るべき、いや、人生で一度は所有しておくべき名作だと思います。


ツインフィッシュにも様々なボトム形状がありますが、僕の作る、このモデルは基本的にシングルコンケーヴを採用しています。
ノーズのエントリーに少しのコンベックス(凸状の湾曲)と、そこからテールエンドまで一貫したコンケーヴ(凹状のくぼみ)を施すことで、ボトムに入り込む水流を一点に集約。それにより強力な揚力を生み出します。トラディショナルなアウトラインからは想像もつかない「爆発的な初速」と、フェイスに張り付くような「安定感」を両立させました。
ツインフィッシュ特有のルースな楽しさは残しつつ、ハイスピード域でのレールの切り返しにおいても、ノーズのコンベックスがスムーズな板離れを助けます。また、シングルコンケーヴが水面を「面」で捉えるため、パワーのある波でもボードが暴れず、意図した通りのマニューバーを描くことが可能です。
シンプルながらテールの抜けとドライヴのバランスを突き詰めた結果たどり着いた、機能美とも言えるボトムデザインです。


トラディショナルなツインフッシュを完成させる上で欠かせない要素、それがこの「ウッドのキールフィン」です。

50/50(左右対称)、あるいは80/20のフォイルを、ユーザーの好みや求める乗り味に合わせて一点一点丁寧に削り出し、それをボード本体に一体化させる「グラスオン」で仕上げています。

取り外し可能なフィンシステムでは決して味わえない、ボードとフィンが一体となることで感じるダイレクトな反応と、ウッド特有のしなやかな粘り。それが「Pocket Fish」にドライヴ感をもたらします。
なぜ「ウッド」の「グラスオン」なのか?
・ウッド素材の「しなり」
硬すぎるカーボンやファイバーグラスと違い、ウッドはターン中に「しなってから戻る」という独自の反発があります。これがターンの後半で「伸び」を感じさせる、粘りのあるドライヴ感を生みます。
・グラスオン(固定式)の「一体感」
フィンボックスを介さないため、ボトムからの振動や、水流のエネルギーがダイレクトに足の裏へ伝わります。またフィンの根本(フィレット部分)まで積層するすることで、水の流れがよりスムーズになります。

フォイル(断面形状)による乗り味の違い
50/50(対称):左右の膨らみが均等。直進安定性とドライヴ感が非常に強く、水流を真っ直ぐ後ろへ流します。
80/20(非対称):外側が8割、内側が2割の膨らみ。適度な揚力を生み出しつつ、ターンのきっかけが掴みやすく、反応が早いのが特徴です。
安定感の50/50か、操作性の80/20か。どちらを選んでも、このボードのために削り出されたウッドフィンが、波との一体感を一段階上のステージへと引き上げてくれます。

サンディングは、サーフボードを仕上げていく上で重要な最終工程です。
このモデルのボトムは、一見するとシンプルなシングルコンケーヴ。しかし、その「シンプルさ」ゆえに、サンディングの僅かな狂いが水の流れを大きく変えてしまいます。
特にグラスオンフィンの周りは、サンダー(研磨機)が入りにくく、とても繊細な作業が求められる難所です。数種類のパッドを使い分けながら、フィンの付け根からボトムのコンケーヴへ続く「面のつながり」を最終的には指先の感覚だけで滑らかに「一体化」させていきます。
削り過ぎれば形状を損ない、甘ければ物理的な重さが残る。
この絶妙な力加減で磨き上げられた「仕上げ」こそが、ストレスのない加速とウッドフィン特有の粘り強いドライヴを最大限に引き出します。
そして仕上がったボードがこちら













こちらのボードをオーダー頂いたお客様は、ご紹介によりご来店いだだきました。僕は、自分から「営業してまわる」ということがどうしても苦手で、こうして口コミで繋がっていくご縁を大切にしたいと思っています。
メンズドレスクロージングを生業としていらっしゃるとのことで、ボードのデザインも落ち着いたクラシカルな色の組み合わせ。細部のデザインはお任せしていただけるとのことでしたので、ラミネートのカットラインにカーブをもたせ、2色のレジンピンラインでヨーロッパの装飾にありそうな、クラシカルかつラグジュアリーさも感じるデザインにしました。「仕立ての良さ」を感じてもらえたでしょうか(笑
素敵なオーダーをありがとうございました。感想を楽しみにしています!
Model:Pocket FISH
5’9″ x 21″ x 2 3/4″
Shaped and Glassed , Fin crafted by Yoshito Shirouzu
Finished by Yuya Suzuki
おまけ:2016年に公開されたドキュメンタリー映画『FISH』の予告編
わずか数分の映像ですが、これだけでもフィッシュの持つ奥深さを感じていただけるはずです。全編はぜひDVDを探してみてください。手元に置いておく価値のある、素晴らしい名作です。





